2022-05-28
見えすぎることは、かえって不安に? グッドデザイン賞審査員・長田英知氏と考える、“見守り”のこれから
子どもが学校へ向かった後、「ちゃんと着いたかな」と気になったり、「今日はどんな一日を過ごしているだろう」と思いを馳せたり。子どもを思う親の気持ちは、どんなに忙しくても、あるいは時代や国が変わっても、きっと変わらないものです。
一方で、子どもを取り巻く暮らしや社会は、時代とともに大きく変わり続けています。そうした中で、「子どもと家族にとっての安心」を、どのように考えていけばよいのでしょうか。
今回は、グッドデザイン賞審査員を務める、Airbnb Japan執行役員の長田英知氏に、「仕組みや社会のデザイン」としての子どもの見守りのあり方や、日常と防災をつなぐ考え方について、お話を伺いました。
目指すのは、見守りが必要でなくなる社会
八木:貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。大変光栄なことに、私たちのBoTトークは、「GPS BoT」(2018年グッドデザイン賞)、「BoTトーク」(2022年 BEST100)、「BoTトーク|シリーズ第5世代」(2025年グッドデザイン賞)と、過去3度グッドデザイン賞をいただいています。本日は、グッドデザイン賞で審査員を務められている長田さんに、審査の視点やデザインの考え方について、ご知見を伺えることを楽しみにしていました。

八木:確かに私たちも、「子どもや家族の安心を支える仕組みをどうつくるか」を考えながら、サービスを開発し、運営してきました。親が子どもを思う気持ちは、きっと時代や場所が変わっても普遍的なものですが、その一方で、社会や暮らしは常に変化していく。そうすると、親の気持ちと社会の仕組みとの間に、少しずつズレや不安が生まれてしまいます。そうしたミスマッチを、デザインやテクノロジーの力で補完できないかと。
長田:そうですよね。私が感じるのは、デザインとは、人を幸せにするためのものだということ。課題や制約を解決しながら、人がより安心して、幸せに暮らせる状態をつくる。その一つの手法が、デザインなのだと思っています。その意味において、BoTトークさんは「子どもと家族の安心を支える仕組み」をつくり、最終的に「見守りそのものをなくすこと」を目指しているという考え方が、とても印象的でした。
八木:ありがとうございます。BoTトークは、「保護者の代わりに子どものそばに付き添ってくれるパートナーで、何かあれば知らせてくれる存在」でありたいと思っています。だからこそ、最終的に目指すのは、「見守らなければ不安という状態そのもの」をなくしていくことなのかなと。とはいえ、時代が変われば、子どもの暮らしも、親御さんの悩みも変わっていくと思うので、その変化に先回りしながら、新しい安心の形を提案していけたら嬉しいです。
八木:プロダクトについて考えた時に、BoTは「使い手が子どもである」ということが特徴の一つなのですが、長田さんは「子どものためのデザイン」について、どのように考えられていますか?
長田:子どもと一口に言っても、小学1年生と6年生では、できることや理解できることが異なりますし、同じ年齢であっても得意なことや不得意なことは、千差万別なのではないでしょうか。一方、子どもたちが「何が楽しいのか」「何に困っているのか」といったことには一定の共通項があるはずで、その共通項の背景にある制約や条件を抽出し、いかに解消していくかという観点で、デザインすることが大事なのではないかと思います。

八木:なるほど。「子ども向け」と一括りにするよりも、今の子どもたちがどんな環境にいて、何に困っているのか。そうした課題そのものに、目を向けることが大事ですね。
長田:一方で、一般的なサービスとは異なる難しさもあるかなと。というのも、多くのサービスは、使う人も提供する人も大人であることが多いですよね。ですが、子ども向けのプロダクトは、実際に使うのは子どもでありながら、その価値や安心感を受け取るのは親でもある。BoTトークさんも含めて、子どもと親、両方の視点からデザインを最適化しなければいけない難しさはありそうです。
八木:そうですね。子ども側の操作はできる限りシンプルにしようと意識している一方で、親としては、子どもの様子を「もっと知りたい」という気持ちもある。でも、知りすぎることは、時に過干渉にもなってしまいます。それよりは、「何かあればBoTが知らせてくれる」と、安心して日常を過ごせるくらいの距離感を大事にしたいなと。
長田:たしかに、見えすぎることが、かえって不安につながることもありますよね。情報が増えれば安心になるというわけではなくて、必要な時にちゃんと分かる安心感が大切なのだろうなと、お話を伺っていて感じました。
いつもが、“もしも”を支える
八木:そうした「必要な時に分かる安心」という意味では、日常だけでなく、災害時のことも意識する必要がありますよね。
長田:そうですね。非常時に急に新しいことをやろうとしても、なかなか動けないものだと思います。だからこそ、普段から使っているものや日常の習慣が、そのまま非常時にも役立つという考え方が大事なのかなと。私は以前、良品計画で「いつものもしも」という、無印良品の防災のサービスを担当していました。防災グッズを“特別なもの”として提案するのではなく、例えば「カレーをローリングストックしましょう」とか、「収納ボックスを普段使いしながら備えにも活用しましょう」といった形で、日常の延長線上に防災を置く考え方を提唱しています。
八木:普段から使って、食べて、また補充していく。その循環の中に防災を組み込む、という考えですね。
長田:はい。そう考えると、BoTトークさんには、すでに子どもの位置情報がわかり、かつ「日常的に声でコミュニケーションする仕組み」がある。それは、非常時にも意味をもつことだと思います。
八木:ありがとうございます。音声機能でやり取りができて、さらにGPSで居場所も確認できることが、親子の日常の安心に繋がっていれば嬉しいです。今後は、端末や運用の面でも、災害時によりよく機能する仕組みを整え、“もしも”の時にも支えになれる存在を目指していきたいと思いました。本日はさまざまな視点からお話を伺うことができ、とても勉強になりました。ありがとうございました!

長田:こちらこそありがとうございました。
プロフィール
長田 英知
ストラテジスト | Airbnb Japan株式会社 執行役員
東京大学法学部卒業。IBMビジネスコンサルティングサービス、PwCアドバイザリー等で戦略コンサルタントとして、スマートシティ、インフラ輸出、MICE戦略など都市・地域を切り口とした新規事業戦略・サービスデザインに携わったのち、良品計画の執行役員としてソーシャルグッド事業部・IDÉE事業を管掌。現在、Airbnb Japanの執行役員として事業開発・パートナーシップを担当。経済同友会幹事を務めるほか、京都芸術大学客員教授を歴任。
八木啓太
1983年生まれ。大阪大学大学院で電子工学を修了後、富士フイルムにて医療機器の機械設計に従事。2011年ビーサイズを創業。世界で最も自然光に近いLEDデスクライト「STROKE」を開発し、国内外のデザイン賞を多数受賞。「ひとりメーカー」として話題に。17年、見守りGPS「BoT」をリリースし、子ども用GPS市場を創出した。