2022-04-22
ルールは自ら変えられる。新渡戸文化小学校が大切にする、対話の3つのポイント
子ども園から短大までを設置し、“Happiness Creator(ハピネスクリエイター)”を学園共通の願いとして、多彩な教育活動を展開する学校法人・新渡戸文化学園(東京都中野区)。同学園では、子どもの自律した学びを引き出すために、独自のカリキュラムを実施し、全国的に注目を集めています。
その根底で重視しているのは、「子どもを一人の主体として捉える」という考え方。知識を教えるだけでなく、問いを立て、他者と対話しながら、自分なりの答えを見つけていく力を育てています。
今回は、新渡戸文化小学校校長補佐の遠藤崇之さんと、教諭の山手俊明さんに、子どもと向き合う際に大切にしている姿勢と、家庭でも実践しやすい対話のポイントを伺いました。
目次
“しあわせをつくる人”を生み出すために
「おはようございます!」と元気な声が響く、平日の朝の新渡戸文化小学校。植物に彩られた明るい正門をくぐると、小学生だけでなく、大学生や地域の大人たちが自然と言葉を交わしている様子が目に入りました。

出迎えてくれたのは、同小学校で教育方針やカリキュラムの策定・実施に携わる校長補佐の遠藤崇之さんと、現場で「山ちゃん」の愛称で親しまれている教諭の山手俊明さん。お二人は、学校全体が目指す姿について、次のように語ります。

遠藤:変化の激しいこれからの社会において、どのような人材が求められるのかを考えたとき、私たちは「誰かをしあわせにできる人であること」、そしてその過程の中で「自分自身もしあわせに生きられること」が重要だと捉えています。知識や技能を土台にしながら、人との関わりの中で信頼や喜び、安心といった価値を生み出し、他者に働きかけながらよりよい社会をつくっていく。そうした考えを出発点として、「自分の大切な人や社会をしあわせにする」という教育の軸が形づくられていきました。
幸せには、決まった形はありません。だからこそ、「自分と相手の幸せ」を時間をかけて考え続ける中で、「自分のやりたいこと」と「誰かのためになること」が重なっていく感覚が育まれていくそうです。
山手:例えば低学年の運動会では、リーダをとる3年生の児童たちが「何をもって成功と言えるのか」を話し合う場面がありました。その中で、「1年生が“楽しかった”と言ってくれたら、それが成功なのではないか」という意見が自然と出てきたんです。
「誰のために」「何が喜ばれるのか」を起点に、子どもたち自身が考え、行動していく。そうした姿勢が、この学校では日常の中で自然と育まれています。
子どもの声で、学校を変えられるという経験を
同校では、児童・生徒と向き合う際、「教師は上から教える存在ではなく、子どもの伴走者である」という考え方を大切にしているといいます。
その姿勢を具体的な形として体現している取り組みの一つが、「全校ミーティング」です。全校の児童・生徒が一つの議題について意見を出し合い、対話を重ねていく場であり、その内容によっては、実際に学校のルールが見直されることもあるといいます。

山手:全校ミーティングは学期ごとに1回、年に2〜3回実施しています。議題は事前に子どもたちから募集し、提案者が自分の思いや理由をプレゼンします。その様子を動画で各クラスに共有し、児童・教師・保護者の意見を聞きながら、「ベストな落としどころ」を探っていきます。これまでに「20分休みを30分に延長したい」「私服で登校したい」といった提案が子どもたちから出て、話し合いを重ねながら実現してきました。
遠藤:「私服で学校に来てもいい日をつくりたい」と提案したのは、入学当初、人前で話すのが得意ではないタイプの小学1年生の子でした。しかし提案が選ばれると、みんなの前でしっかりとプレゼンを行い、拍手を受けていて。その後、学年が上がるにつれて校内プロジェクトの中心人物として活躍するようになりました。学校にはルールや校則がありますが、それは絶対的なものではなく、子どもたちの声によって変えていくことができる。そうした経験を得てほしいと考えています。
「ここに戻れば大丈夫」と思える場所が、子どもの挑戦を支える
子どもは、こうしたルールづくりに関わる中で、自分の考えを相手に伝える力を育てていきます。一方の先生は、子どもが「自ら動くことで何かが変わる」という実感を持てるよう、日々サポートしながらプロセスを見守っていると言います。
山手:私たちは、子どもが自由に考え、活動し、対話することを目指しています。言い換えると、「すべての主語が子どもである状態」を実現したいと考えているんです。それは「どうぞ」と任せきりにする放任ではなく、子どもがどのようなことに関心や願いを持っているのかを思い描きながら、その場をデザインするということ。そうした環境が整うと、子どもは楽しみながら、自然と主体的に動き出していきます。

こうした子どもを見守る姿勢は、学校だけでなく、家庭での関わり方にも通じるものだと言います。遠藤さんは、子どもの成長に応じて、親の関わり方を少しずつ変える重要性を伝えます。
遠藤:低学年のうちは、親がしっかりと子どもに関わり、安心できる関係を築くことが、その後の成長の土台につながります。3、4年生になると社会性が発達し、友達とのつながりを大切にするようになりますが、これは自然な成長のサインとして受け止め、見守ってあげてください。そして5、6年生になると、大人への入り口に立つ時期です。親があえて距離を取ることも、一つの関わり方だと思います。ただし大切なのは、いつでも安心して戻ってこられる場所をつくっておくこと。どんなに外で挑戦し、うまくいかないことがあったとしても、「ここに戻れば大丈夫」と思える——そんな「船着き場」のような拠点があることで、子どもは安心して一歩を踏み出すことができます。
家庭でも大切にしたい対話のポイント
こうした「見守りながら関わる」という姿勢が大切だとわかっていても、日々の中では、つい子どもの言葉を聞き流してしまったり、結論を急いでしまったりすることもあります。そんなときに改めて意識したい、新渡戸文化小学校が大切にしている「3つの対話のポイント」を教えていただきました。
1:3つの聴くを大事に
対話をスタートする前には、「否定せずに聴こう」「関心をもって聴こう」「最後まで聴こう」という3つの「聴く」の重要性を子どもに伝えています。
すぐに「ちがう」と決めつけずにじっくり話を聴くこと。相手がどのような気持ちで話しているのかに関心を寄せること。そして最後まで遮らずに聴ききること。反対意見があってももちろん構いませんが、それは相手の考えや思いをしっかり受け止めたあとでこそ成り立つものだと考えています。(遠藤先生)
2:まずは受け止め、肯定する
対話の中では、相手の言葉をまず受け止め、「面白いね」とポジティブに関わる姿勢を大切にしているそうです。
例えば「作家の時間」という授業では、文章の構成や正しさを評価する前に、子どもが書いたものをそのまま受け止めることを大切にしています。対話においても同じで、すぐに良し悪しを判断するのではなく、まずは受け止め、肯定し、その面白さに目を向けること。そうした関わりが、子どもを勇気づけ、自分の考えを安心して表現できる土台を育てていきます。(遠藤先生)
3:「かも」で提案する
同小学校の校内には、鴨をモチーフにしたポスターや標語が掲示されています。これは、対話のルールを象徴するものだそうです。
「提案」という言葉を使うとどうしても身構えてしまうため、「みんなで話し合うといいかも」「これをやると楽しそうかも」といった「〜かも」という表現を大切にしています。断定せず余白を残すことで、意見が出やすくなり、日常の延長として自然に対話が広がっているのを感じます。(山手先生)
「しあわせ」をつくる人を育むことを目指す、新渡戸文化小学校。
そこにあったのは、特別な仕掛けではなく、子どもたちの言葉に耳を傾け、ともに考え、ともに決めていく——そんな日常の積み重ねでした。一つひとつの対話が、子どもの主体性や他者へのまなざしを育てていく。その時間こそが、「しあわせ」をつくる力の土台になっているのかもしれません。
編集後記
<動画>
お話を伺う中で印象的だったのは、新渡戸文化小学校の先生方が、皆さんとても生き生きとされていたことです。そしてそれは、生徒の姿にもそのまま重なっているように感じられました。
遠藤さんは、「子どもは親の所有物ではなく、それぞれの人生を生きている主役である」と話します。その一方で、子どもが帰ってきたいときに受け止め、休ませ、認めることができる家庭や親であること。見守り方や距離の取り方を、子どもの成長に合わせて少しずつ変えていくことが大切だといいます。
私たちBsizeが提供する子ども見守りGPS「BoTトーク」もまた、子どもたちが安心して外の世界へ踏み出し、自分の興味や関心をもとに挑戦していくことを応援したいという思いから生まれました。実際に、新渡戸文化小学校に通うお子さまの中にもご利用いただいている方がいらっしゃり、このような学びの現場の中で自然に広がっていることを、嬉しく感じています。
これからも、子どもたちが自分らしく歩み出し、世界を広げていけるように。BoTトークもまた、その一歩に寄り添いながら、共に冒険できるパートナーでありたいと願っています。