2023-12-23
【山形県長井市】スマートシティが育む、“見守り”の新しいかたち
山形県の南西部に位置する、人口約2万5千人の地方都市・長井市。競技用けん玉の生産量が日本一というユニークな特徴に加え、古くから製造業の集積地としても知られています。
一方で、近年は全国の多くの自治体と同様、少子高齢化と人口減少が急速に進行。地域にさまざまな課題が生じるなか、子どもの安全を見守る体制にも新たな工夫や見直しが求められるようになってきました。
こうした課題に対応するため、長井市では2019年から、ICTやAIなどの先端技術を活用し、地域課題の解決とまちづくりの推進を目指す「スマートシティ長井」構想を進めています。今回は、同構想の進捗や、子どもの安全・見守り施策について、長井市総合政策課デジタル推進室室長の小倉圭さんにお話を伺いました。
デジタルを暮らしに近い存在にするために

子育て支援施設「くるんと」内の店舗でも、地域通貨のながいコインが使用できる(画像提供:長井市)
長井市が「スマートシティ長井」構想をスタートさせたのは2019年。高齢化や都市・地域間格差といった社会課題の解決を目指す、国の戦略「Society 5.0」に呼応し、同市でもさまざまな分野でデジタル技術を活用した取り組みが始まりました。
その第一弾として、2020年に市は庁内に「デジタル推進室」を新設。市役所内の若手職員を中心に構成され、NTT東日本本社から専門人材の派遣も受け入れながら、組織づくりを進めてきました。行政業務の効率化はもちろん、「子育て・教育」「福祉」「地域経済」など、多分野にわたり市民の生活に寄り添ったICT活用を実現しています。
こうした施策は、デジタルを活用した地域課題や魅力向上に取り組む地方自治体を支援するために、国が交付するデジタル田園都市国家構想交付金を活用して推進されています。
小倉氏はこれまでの取り組みの中でも、市民の暮らしに特に浸透しているのが、地域通貨の活用だと語ります。
「長井市では、地域経済の活性化やキャッシュレス決済の普及、決済データの活用を目的に、2022年にデジタル地域通貨『ながいコイン』を導入しました。これまで、商品券や物価高騰対策の給付金の配布手段としても活用しており、累計流通額は6.45億円に上ります。高齢者層のスマートフォン利用の促進や、行政事務の効率化といった副次的な効果も大きいと感じています」
子育てと安全がスマートシティ施策の根幹に

画像提供:長井市
スマートシティ構想の中でも、長井市が特に重視してきたのが「子育て」と「安全」の分野です。
デジタル推進室では、「テクノロジーをいかに暮らしに役立てるか」という視点で日々議論が重ねられてきました。その中で、子育て世代の職員から寄せられた声をきっかけに検討が始まったのが、子どもの登下校を遠隔から見守るGPS端末の導入です。複数のサービスを比較検討した結果、最終的に選ばれたのが「BoTトーク」でした。
「保護者がアプリで子どもの位置を確認できるのはもちろんですが、AIが子どもの行動範囲を学習し、“いつもと違う”動きを検知する機能があることが、子育て環境の魅力を高めることで地方創生を進めていきたい長井市の考え方と合致したため、『これは行政として導入する価値がある』との判断に至りました」

画像提供:長井市
BoTトークは、AIが子どもの日常的な行動範囲を自動で学習し、普段と異なる動きがあった場合には保護者のスマートフォンにPUSH通知で知らせてくれる機能を備えています。保護者が常に位置情報をチェックしていなくても、「何かあれば通知が届く」という安心感があり、「全自動の見守り」とも言える仕組みです。
市では2022年より、BoTトークを市内の小学校に通う児童のうち希望者を対象に、無償で端末を貸与。2025年6月時点で、市内の小学生の約47%がBoTトークを利用しています。導入後の市民の反応について、小倉氏はこう語ります。
「明確な反響があるわけではないのですが、それこそ理想に近い形だと思っています。テクノロジーが特別視されるのではなく、日常に自然と溶け込んでいる。それはとても大きな意味を持っていると感じています」
“位置情報 × 地域リスク”で次のフェーズの見守りへ

画像提供:長井市
BoTトークから得られる小学生の行動データは現在、市が保有する河川氾濫のリスク箇所や有害鳥獣の出没情報、交通事故発生地点など、さまざまな地域リスクデータと組み合わせて、実験的な分析が進められています。
たとえば、通学時間帯に子どもたちがよく通るエリアと、過去に交通事故が発生した地点、河川の氾濫リスク、クマやイノシシなどの出没地点などを、一つの地図上に統合。これにより、これまで経験や勘に頼っていた「危険の予測」を、客観的なデータに基づいて判断できるようになりつつあります。
こうして可視化された情報は、通学路の見直しや防災教育の教材、登下校時の注意喚起ポイントの設置、保護者への情報共有など、さまざまな施策への活用が期待されています。
「見守りは、個別の対策にとどまらず、“地域全体の安全インフラ”として進化していく必要があります。BoTトークはその基盤となるデータを、日常から自然に蓄積してくれる存在です。今後は防災・防犯体制ともさらに連動させながら、市民の皆さんの安心につながる取り組みを広げていきたいと考えています」
編集後記
Bsizeでは今回の長井市様の事例のように、自治体との事前協議のもと、ユーザーの皆様からプライバシーポリシーに基づいた明確な同意を得たうえで、個人が特定されないかたちで、地域の安心安全にお役立てていただいている事例もあります。 今回、長井市様にお話を伺う中で、こうしたデータ活用が具体的な施策として形になっていることを知り、大変嬉しく感じました。
私たちが大切にしているのは、テクノロジーを単なる“ツール”としてではなく、「人と地域をつなぎ、支えるインフラ」として育てていくという姿勢です。
子どもの日常を見守ることから始まったBoTトークの活用は、現在では防災・防犯、交通安全といった領域にまで広がり、今後は高齢者の見守りにも応用していく予定です。こうした取り組みの根底には、「テクノロジーは地域社会を守る力になり得る」という確信があります。
万が一に備える仕組みを、日常生活の中に自然に組み込んでいく。その積み重ねが、地域の未来を支える“安心”のかたちになっていくと、私たちは信じています。
Bsizeはこれからも、ユーザーの皆様をはじめ、企業・自治体・教育機関の方々とともに歩みながら、誰もがより安心して暮らせる社会の実現に貢献してまいります。
参照
・長井市公式ホームページ スマートシティ長井の実現に向けた取り組み
・SDGs未来都市 長井市「スマートシティ」視察プラン」