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子どもの好奇心はどう育まれる?世界は“すき間”からおもしろくなる【グッドデザイン賞トークイベント】

子どもの好奇心はどう育まれる?世界は“すき間”からおもしろくなる【グッドデザイン賞トークイベント】

子どもは日々の生活のなかで、小さな「気になる」を起点に、身の回りの世界を少しずつ広げています。たとえば、帰り道に見つけた小石を何度も拾い上げたり、見慣れない虫にふと立ち止まったり。そんな瞬間の一つひとつが、子どもの成長につながる“気づきのタネ”です。

では、こうした気づきを生み出す「好奇心」は、どのように育まれていくのでしょうか。

今回は、2025年度のグッドデザイン賞で審査委員を務めた、多摩美術大学プロダクトデザイン専攻教授の濱田芳治さんと、予防医学研究者の石川善樹さんの対談から、教育と好奇心をキーワードに、子どもの学びのヒントをご紹介します。

教育は基準がないからこそ難しい

子どもを取り巻く環境は、少子高齢化やデジタル化、価値観の多様化など、近年の社会情勢の変化によって大きく様変わりしています。濱田さんは、子どもとのワークショップなどの経験を通じて、いまの教育の変化について感じることを語ります。

対談は、「原理からひもとく、子ども教育とデザイン」をテーマに、公益財団法人日本デザイン振興会の主催で行われた。

濱田:教育の世界では、2つの方向性がよりくっきりと“対極”として見えるようになってきていると感じています。たとえば北欧発祥で、園舎を持たず森の中で時間を過ごす「森のようちえん」。文字やアルファベットなどの読み書きは教えず、代わりにナイフや火の扱いなど五感を使った経験を積み重ね、それらが後々の体幹や“生きる力”につながると考える教育スタイルです。一方で、早いうちから読み書きや計算を身につける“早期教育”もありますよね。この2つは、まさに対照的なアプローチだと感じます。

どちらが良い、悪いではなく、こうした異なる考え方が同時に存在していること自体が、いまの教育が大きく揺れ動いていることを映し出しているのかもしれません。そしてそれは「子どもにとって何が大切か」を社会全体で見直している最中だからこそ生じる迷いにも見えます。

教育というテーマに対して、石川さんは「評価基準がないことが最も難しい」と話します。

石川:僕が専門としている医療では、病気が治るか、寿命が延びるかという明確な指標と基準があります。一方で、教育では、何をもって良い教育と言えるのかという判断が難しい。子どもが何歳の時に、どのような状態になっていればよいのか。大人になった時に幸福感が高ければいいのか。子どもに何をインプットし、どんな体験を積ませるのがいいのかという問いに対して、明確な答えや基準がないからこそ、教育は「終わりのない模索」を続けているように見えるんです。

“あとからでは入りにくいもの”に出会える環境を

濵田さんが小学生約100名と行ったワークショップの作品(引用:多摩美術大学HP

石川さんはそんな教育の難しさにふれながら、ご自身の研究の中で見えてきた、子どもの学びと重なる視点を紹介します。

石川:僕は、昔からお世話になっている先生の「最初から情報を集めない」という言葉を大事にしています。というのも、研究を始める時にいきなり情報の収集から入ると、どうしても細かな部分だけを扱う研究になってしまうんです。そうではなく、まずは自分の中に湧いてくる「妄想」や、「こんなことが起きたら面白い」という感覚から始めなさい、と。つまり、直感に従って自由に思い描くところから出発することを大切にしなさいと言われてきました。

そして「子どもはまさに同じことをしている」と続けます。

石川:砂場遊び一つとっても、遊ぶ前に「砂場の遊び方」を学ぶ子はいませんよね。たとえ「砂場の遊び方100選」という本があったとしても、きっと読まずに遊び始めるでしょう。まずは砂に触れ、こねて、崩して、またつくる。その後で周りの様子を見て、「こんな遊び方もあるんだ」と気づいていく。こうした“触れて、試して、違いを知って、新しい遊び方が生まれる”プロセスは、研究の始まり方にも通じています。

濱田:子どもは、自らやってみて感覚をつかみ、そこから次の一手を自然と見つけていますよね。そう考えると、知識などよりも先に“あとからでは入りにくいもの”――それは触れたときの感覚や、小さな驚きのような、その時期にしか芽生えにくいもの――に出会える環境が大事なのかもしれません。

好奇心を育てるためにできること

石川さんは医学博士として、人がよりよく生きる「Well-being」をテーマに研究する

砂場遊びと同じように、子どもは「やってみて、気づいて、また試す」を繰り返しながら、発見を広げていきます。その原動力になっているのが、好奇心です。

石川:心理学や脳科学では、人は知識の”すき間”を発見したときに好奇心が生まれると言われています。まったく未知の領域に対しては、なかなか興味をもちにくいんです。例えばチャーハンで考えてみましょう。中華レストランで食べるパラパラのチャーハンが美味しいと感じるとします。そして自宅で料理した際に、お米がベちゃっとしてしまうと「なんでだろう?」と疑問に思う。その “差分” が好奇心の源です。知っていること同士の間にできる“すき間”から、「もっと知りたい」という気持ちが生まれてくるのです。

好奇心がどのように生まれるのかが見えてくると、今度は「その好奇心をどう育てていけばいいのか」という疑問も浮かんできます。子どもの中に気づきのタネが生まれた後、大人はどのように寄り添えばいいのか。編集部がこう投げかけると、最後に2人はメッセージを寄せてくれました。

濱田:僕は教育の専門家ではないのですが、子どもが集中できる45分ほどの時間を大切にすることが重要だと考えています。熱中して時間を忘れてしまうような瞬間や体験を大事にする。時には調子にのっている姿をあたたかく見守ったり、もうひと踏ん張りできそうなときはそっと背中を押したり。一方で、しんどそうなときには少しペースを緩めてあげたり。子どもは自分の中に、ちゃんと“エンジン”を持っている。そのことを信じて、子どもを見守りながら、長く走れるようにしてあげるのが最も大事だと思います。

石川:僕は子どもと関わるたびに「教育されているのはむしろ自分だな」と感じます。大人の振る舞いは、鏡のように子どもに映ってしまう。また、「こういうふうに育ってほしい」という思いは、大人側の偏った価値観ということもあり得る。その危険性を自覚しながら、大人も一緒に色々なことにトライしていただけると、子どもの好奇心を育てる一歩にもつながるのではないでしょうか。

※本対談は、公益財団法人日本デザイン振興会主催「私の選んだ一品 2025」トークの「原理からひもとく、子ども教育とデザイン」イベントの一部抜粋です。全編はこちらから視聴いただけます。

編集後記

今回の対談は、最新のグッドデザイン賞受賞デザインを紹介する企画の一つとして行われたものです。グッドデザイン賞は、1957年に旧通商産業省が創設した「グッドデザイン商品選定制度」(通称Gマーク制度)を継承する、日本で唯一の総合的なデザイン評価・推奨制度です。

私たちのBoTトーク(シリーズ第5世代)も、2025年にグッドデザイン賞を受賞し、下記のような評価コメントを頂戴しました。

本対象(BoTトーク)は、2022年にBEST100に選ばれたデザインをアップデートしたものである。 GPSだけでは位置取得ができない屋内や地下、乗り物内で位置を特定する技術や、オートサーチで現在地までの足取りを示すなどの基本機能はそのままに、前バージョンと同サイズで新たにディスプレイを搭載した。この結果、端末を使う子供がアクセスできる情報は格段に増え、誰でも簡単に非同期の双方向コミュニケーションができるツールとなっている。

グッドデザイン賞では、分野ごとに部門が設けられ、それぞれの専門性にもとづいて審査が行われます。BoTトークが対象となった部門の審査員長は、審査の過程で浮かび上がった傾向やポイントについて、次のように語ります。

今年は特に、社会課題にどのようにアプローチし、どのように解決につなげているのかが明確な取り組みを中心に選出しました。また、課題解決そのものを“デザイン”と捉え、その仕組みの中にどのような新規性があるかも重視しながら、これまでの社会の慣習を打破する「はじめの一歩」となるデザインを評価しています。

(長田英知氏|Airbnb Japan執行役員・株式会社良品計画ソーシャルグッド事業部担当執行役員)

子ども見守りGPSのBoTは、近年の家庭環境や働き方の多様化といった社会的変化に応じながら、子どもの自発的な解決を促し、成長をサポートしてまいりました。そうした一歩をご評価いただけたことを、大変嬉しく感じます。

ご家族とBoTが見守っていることで、子ども達がより前向きで健やかに冒険できるように。そして、保護者の皆さんが安心してお子さんを送り出せるように。これからもテクノロジーとデザインの力で貢献してまいります。

 

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