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大阪教育大学附属天王寺小学校に学ぶ、子どもの個性を伸ばす3つのヒント

大阪教育大学附属天王寺小学校に学ぶ、子どもの個性を伸ばす3つのヒント

子どもが成長するにつれて、「自分の考えを持ってほしい」「人と協力できる力を身につけてほしい」と願うご家族や保護者の方は多いはず。けれど家庭や学校で、どのような環境や声がけがあれば、そうした力が育まれるのでしょうか。

創立150年を迎えた大阪教育大学附属天王寺小学校では、異学年との交流や教科を横断した学び、そしてご家族を含めた“ひらかれた見守り”を通して、子どもたちが日々、主体性や協調性を育める環境を創り出しています。

そこで今回は、同小学校の特徴をお伺いしながら、現場の先生から共有いただいた「家庭にも活かせるヒント」をお届けします。

ひらかれた、実践的な学びを


大阪教育大学附属天王寺小学校は、150年の歴史を持つ教育研究の拠点校であり、全国の教育現場からも注目を集める学校の一つです。

太陽が照りつける7月の暑い日、編集部が校門をくぐると、子どもたちの笑い声が廊下や教室から響いてきました。この日は夏休み前の特別イベント「TRIO SUMMER FES.2025」が開催され、子どもたちのいきいきとした姿が校内のあちこちで見られます。

「TRIO SUMMER FES.2025」では、1〜3年生の異学年の子どもたちが3人組(TRIO)のチームをつくり、校内のさまざまな教室を巡って理科の実験や音楽プログラム、英語のクラスなどを体験します。この企画の背景を、中野知洋校長はこう語ります。

 

中野校長:TRIO SUMMER FESは、年齢や得意・不得意の違いを越えて協力し合うことで、自然にコミュニケーション力や礼節が育まれる取り組みです。それぞれに良さや個性をもつ子どもたちが、3人という小さな集団の中で“自分はどう動けばよいか”を考える。得意なことは率先して取り組み、仲間を助け、不得意なことは助けてもらう。そうしたやりとりを通して、子どもたちの個性や主体性が伸びていくと考えています。

一方、副校長の森保先生は、こうした取り組みの背景を次のように話します。

森先生:本校の大きな特徴は、教科横断型のSTEAM教育です。たとえば今日のプログラムでは、表面張力を確かめる理科の実験を用意しています。満杯のコップにコインを何枚入れられるかを試しながら、子どもたちは教科書での説明にとどまらず、自らの手で実践し、異学年の仲間と一緒に学ぶ体験です。年上の子が声をかけたり、得意な子がリードしたりする中で、知識が体験として深まっていきます。こうした姿はまさに、算数や理科、言語や表現など複数の教科を組み合わせて課題に挑むSTEAM教育そのものです。私たちは、机上の知識を超え、仲間と協力しながら学ぶプロセスこそが、実社会に近い学びへとつながると考えています。

子どもの個性をどう伸ばす?3つのヒント

同校はSTEAM教育を実践すると同時に、「個が生きる学校」という理念を掲げ、日々子どもたちと向き合っています。自ら考えて行動する力は、保護者が子どもに願う姿であると同時に、変化の激しい時代を生き抜くために社会からも強く求められている資質です。

では、その力はどのように育むことができるのか。今回は、家庭でも取り入れやすいヒントを伺いました。

①個性は「集団の中で生きるもの」という前提に立つ

「個を伸ばす」と聞くと、“自己主張が強い”“わがまま”といったイメージを連想してしまう方もいるかもしれません。けれど森先生は、本来の“個”とは、むしろ他者との関わりの中でこそ育まれるものだと語ります。

自分の得意や苦手を理解したうえで、どう補い合い、どう活かしていくか。その経験は、社会に出たときの協調性や自立につながっていきます(森先生)。

家庭でも、この考え方を応用することができそうです。兄弟姉妹がいる場合はもちろん、ひとりっ子の場合でも、親子で一緒に家事や料理に取り組んだり、友人と遊びや課題に挑戦したりする中で、「得意なことを生かす」「不得意なことを補い合う」経験を積むことができます。

大切なのは、ひとりで完結させずに、誰かと役割を分け合いながら協力すること。その積み重ねが、家庭や日常でも自然に主体性や協調性を育んでいくのかもしれません。

②「できたこと」より「できなかったこと」に注目を

中野校長は、子どもの成長を見る際に「できたこと」よりも「できなかったこと」に注目するよう勧めます。

多くの保護者は“できるようになったこと”を褒めますが、小学生のうちはむしろ“できないこと”を楽しんでほしいと考えています。「挑戦してすごいね」「分からなかったことが分かったのは素晴らしいね」と声をかけることで、子どもは安心感を得て、次の一歩へと踏み出すことができます。(中野校長)。

できなかったことを“失敗”ではなく“発見”として捉える。そんな関わり方が、子どもの挑戦を前向きな経験へと変え、それがやがて個性として育まれていくのかもしれません。

③「なぜ?」を止めない:好奇心が個性を育てる

森先生は、子どもの学びにおいて「なぜ?」を止めないことの大切さを語ります。

子どもの好奇心は、放っておけばどこまでも広がっていくものです。けれど大人が『テストに出るかどうか』『役に立つかどうか』という軸で判断してしまうと、その芽を止めてしまうことがあります(森先生)。

“なぜ?”という気づきこそが学びの原動力であり、この問いを繰り返す過程で、自分ならではの視点や考え方が形づくられていきます。つまり「なぜ?」を持ち続けることは、子どもならではの考え方や個性を育むことにも直結しているのです。

たとえば「なぜ空は青いの?」「どうして雨は降るの?」といった素朴な疑問は理科や社会の知識へと広がりますし、「どうしてあの子はそう考えたんだろう?」という問いは、友達との関わりを学ぶ入口にもなります。

大人がすぐに答えを示すのではなく、「どう思う?」「一緒に調べてみようか?」と問い返す。そんなやりとりが、子どもの中にある“考える芽”を伸ばし、次の挑戦や自分らしい学びへとつながっていきます。

大人こそ率先して挑戦を


各ブースで先生や保護者が子どもたちといきいきと向き合っている姿を見ると、大人が子どもと一緒に全力で楽しんでいる――そんな空気が伝わってきました。先生方は笑顔でこう語ります。

「変化の激しいこの時代に、子どもたちが柔軟に対応できるようになってほしいと願うなら、私たち教師自身もまた、自ら考え、関心をもったことに挑戦することが大切です。子どもたちと同じように試し、楽しみながら学んでいるからこそ、思いついたアイデアは積極的に出し、実現しています」

大人が挑戦者であり続ける姿は、子どもたちにとって最高の学びのモデルです。大人が生き生きと学びに向き合う背中を見せること――それこそが、大阪教育大学附属天王寺小学校が大切にしている「個を生かす学び」につながっているのかもしれません。

編集後記

取材で訪れたこの日は、多くの保護者がイベントのサポートに加わっていました。実は同校では特別な日だけでなく、日常的に保護者が学校に足を運ぶことができます。図書館の管理や水回りの掃除などをPTAが担い、7月だけで延べ4,000人もの保護者が学校に関わったそうです。

子どもが学校でどう過ごしているのかは、やはり気になるものです。特に問題がありそうなとき、普段来ない親が突然現れると、子どもは『何かあったの?』と驚いてしまうこともあります。だからこそ、普段から保護者が自然に学校にいる状態をつくっておきたいと考えています(中野校長)。

先生、保護者、地域の方々など、さまざまなまなざしがあるからこそ、子どもの変化にいち早く気づけます。一人の先生だけでは気づけない小さなサインも、他の先生や保護者なら見抜けることがある。逆に、親だけでは見落としてしまうことを学校の先生が拾い上げることもある。だからこそ“見守りのネットワーク”が大事だと思います。見守りの原点は、“気にかけ続けること”ではないでしょうか(森先生)。

私たちBsizeが提供する子ども用見守りGPS「BoTトーク」も、まさにその一助となる存在でありたいと考えています。BoTトークは、保護者だけでなく祖父母や離れて暮らす家族など、複数の人が同時に子どもを見守れる仕組みを備えています。そして同校の生徒の多くにBoTトークをご利用いただいていることを、大変嬉しく思います。

子どもを支えるのは、一人の大人だけではありません。多様なまなざしが重なり合うからこそ、子どもは安心してのびのびと過ごすことができ、その中で多彩な面を出すことができます。

私たちはこれからも、子どもたちが安心して自分らしく成長できる環境を支え、その個性と力がより豊かに広がっていくよう、共に歩んでいきたいと思います。

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